ヨーロッパと日本の私

ヨーロッパで体験した事、等々

名前はPaula~美鳩 

Paulaに出会ったある冬の思い出を私は生涯忘れないでしょう。   

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あの小さな身体のどこに私を虜にする力が隠されていたのか、それはまさに心身を揺さぶる感動でした。5年も前,Paulaと過ごした数週間が鮮明によみがえります。

 

友人のヨハネスの土地は約3000qm、その一角に2人の人間が腕を回してやっと届く程の

大きなカナリー松 があります。高さは20m-30m、そのまっ直ぐに伸びた大松は大きな枝をはり、空が見えない程、誇り高くそびえて、遠い所からでもすぐ目につきます。

夏は格好の日陰、大松から松葉や松かさが落ちて積り、その上を歩くとフワフワとした感触が珍しく、大松の香りが空気を包みこむ不思議な雰囲気になります。

 

ある日、私の家から車で5分位で着くヨハネスを訪ねたら、きれいな鳥が舞い込んで来て松の枝のどこかにいるけど、どうしても捕まえられないと困っていました。

数日の間それが鳩なのか、他の鳥はわからないままパン屑や果物と水を松の木の下に置いてようすを見ていると、ある朝、下に降りてきて餌を食べているのを見て鳩だと分ったと言いました。持ち主の所からなにかの事情でたどり着いたに違いないと考えました。その優雅で美しい鳩は愛玩鳥で所有者が探していると思いました。冬期で冷たい夜露や時々降る雨に濡れる事を想像してなんとか捕まえて、鳩なら足につけている筈の番号から所有者を探して返すべきだと考えました。約8mも高くにある大きな枝の間にできた場所に座っている鳩を、又、餌を探して飛び降りてきた瞬間を見ては捕獲戦、しかし、どの方法でもダメでした。

伝書鳩の愛好家、ベルトにも来てもらいましたが、それでもできなかったのです。

友人のヨハネスはドイツに帰国する日が近づき、不在になる空家と広大な土地では、この鳩が生き延びれないと心配をしていました。ヨハネスの出発の数日前、困り果てた私達が木の上を見ていると、美鳩がバタバタを気持ちよさそうに飛び立ち、なんども私達の上を旋回してその優雅な姿を見せてくれたのです。私はすっかり魅せられて言葉を失いました。餌を上げたりしている間にこの美しさの虜になっていたのでしょう。世話をすることを提案し、私は毎朝あるいは朝夕訪ねました。数日後、枝の一番高く安全な場所を決めた美鳩はその体を私の来る方向に変えて、私の赤い車が止まり、約20m位近くになると声を出すようになり、私を待っているのだと気が付き、声をかけると返事をします。そして大松の下の平らな一定の場所に餌をばら撒くと、降りてきて美味しそうに食べ、ヨチヨチ歩いて、帯状に置いた餌を食べて、さらに松葉の上を散歩もするようになりました。雨の日、風の日は私も落ち着かず走って様子を見に行き、ダンダン慣れてきて私は松葉の上に直接座り込み、そばを美鳩が遊びまわる、、ほんとうにすばらしい気分でした。私達は言葉もなくお互いに十分理解できたのです。

数週間後に再度ドイツから到着したヨハネスも驚き、美鳩がこの大松が住み家になっているのを喜びました。いつでも大空に飛び立ち旋回でき、野良犬も猫も、他の外敵を近づけない大松が一番安全なのを知っていたのです。

当時、私自身亡き主人の残した古民家を整理して日本に帰国するための用事が増えて、又、出発の日が近くなりどうしても美鳩を移動する事を考えねばなりませんでした。

ドイツ人の医者と友達のヨハネスはなんども見た、Dr Vossの鳥小屋を思い出し相談に行きました。ご夫妻は自然派、30-50羽の種類の違う小鳥を飼っていて、朝夕、水と餌をあげます。そして美鳩は一番大きいので仲間に入れるかどうか、、しかし試してみるとの朗報でした。私達の捕獲戦が数か月前のように始まりました。慣れていたので、簡単と考えたのは間違い、数日間、餌・水を上げなくても、箱やネットが近くに来ると素早く逃げて大松に飛び移ります。そしてある日,餌を食べている間に、後ろからかぶせた箱の中に閉じ込め、私達はすぐにDr Vossの鳥小屋に約10分走りました。ゴメンネ、となんども箱の上から声を聞かせて、、私は泣いていました。

 

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Dr Voss はその後、好物のヒマワリの種を食べる事、他の小鳥も仲良くなった事、そして、名前を<Paula>と付けた事、等、細やかな知らせを写メールでくれます。

1年半後、私は再び懐かしいラパルマ島に行き、一番にDr Voss夫妻にお礼をして、

おそるおそるPaulaの小屋に近づき、Paulaと私達の共有語で声をかけると止り木から降りてきたのです !! しっかりと私を覚えていました !! 感動して枯草の上に

座り込み、以前もそうしたようにお互いのひと時を過ごしました。

この小さな動物の限りない生命力は私の時間をすべて止めて優しい温かい思いを教えて

くれます。次回はいつ会えるのか、、会えないのか、、Dr Voss夫妻も家族のようになり大事にして、時々、ドアーを開けるとヨチヨチと庭を散歩するけど、空には舞い上がらない、、との事です。Paulaは何才なのだろう? 時々あの大松の上で、大空に舞い上がった幸福な時間、私達が共有した喜びを夢に見たるのだろうか。